ミマス
1971年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。音楽ユニット『アクアマリン』のキーボード、ギター、作詞・作曲担当。代表曲『COSMOS』『地球星歌』などは富澤裕氏により合唱曲に編曲され、全国の学校や合唱団で歌われている。小学生の頃から天文や宇宙に親しみ、旅好きで多くの国を旅した経験もあるため、星や宇宙、自然や旅などをテーマにした作品が多い。大学・大学院の専攻は自然地理学。音楽は高校生のときに独学で始める。近年はアクアマリンでのライブ活動のほか、小・中学校に招かれての授業や講演も多い。
公式サイトは、http://aqumari.com/
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ミマスさんの |
第1回 《COSMOS》
●はじめに
僕はいわゆる「合唱曲の作曲家」ではありません。きっとあなたの身近にもいる、ライブハウスや地域イベントのステージで演奏しているミュージシャンの一人です。一応この活動で細々と生計を立てていますから、職業として音楽をやっていると言えます。「好きなことを仕事にする」という、幸運に恵まれたといえるでしょう。でも、これまで音楽学校に通ったり、作詞作曲をちゃんと習った経験はありません。高校生の時に音楽と出会い、独学で勉強し、少しずつピアノや作曲を学んでいったのです。
そんな僕が作った《COSMOS》という歌が、2000年に合唱曲になりました。多くの方に気に入っていただき、全国たくさんの小・中学校や合唱団で歌われるようになったのです。この曲を「合唱界における21世紀最初のヒット曲」と言ってくださった方もいます。
そのお陰で、光栄なことに、僕が作ったいろいろな曲も合唱曲として世に出していただくようになりました。近年は、歌ってくれている学校に招かれて講演や授業やコンサートをすることも多くなりました。
これからお読みいただくのは、《COSMOS》を始めとする合唱曲ができるまでのエピソード、歌詞に込めた想い、そして僕がどんな道をたどって好きな音楽を仕事にするようになったのかといったことです。歌ってくれた若い皆さんへのメッセージもあります。これから自分で歌を作ってみたいという方のための、作詞作曲講座もあります。少しでも何かを汲み取っていただき、あなたの生活や人生に役立ててくれたら本当に嬉しいです。
1.星空とともに歩む人生
2001年11月18日の夜。日本の上空に流星雨が現れました。しし座流星群の大出現です。
「流星群」とは、毎年決まった時期に流れ星が多く見られる現象のこと。8月中旬のペルセウス座流星群、12月中旬のふたご座流星群はとくに有名です。毎年ピークの晩には、1時間あたり数十個の流れ星が見られるのです。
しし座流星群は11月。普段の年はほとんど流れないマイナーな流星群です。ところが、約33年ごとに、夜空を埋め尽くすほど大量の流れ星を降らせることで知られています。それが「流星雨」です。
その光景を僕は、茨城県大子町の山奥で見ました。真夜中から夜明けまでの約6時間。ほぼ「1秒に1個」というペースで、漆黒の夜空を切り裂いて、眩しい火の玉がドカンドカンと流れ続けたのです。生まれて初めて見る光景。おそらく一生に一度の体験。1時間あたり数千個という大流星雨です。このとき夜空を見上げた人は、一晩で1万個ちかい流星を見たはずです。
とめどなく降り注ぐ流れ星の雨。それを眺めながら、僕はある想いで胸がいっぱいになっていました。「世界はあまりにも広く、自分の持ち時間はあまりにも短い……」。なぜそんなことを考えたのか、今でもよく分かりません。
ただその一夜を境に、僕の人生に対する姿勢は大きく変わりました。「よし、これからの人生は、世界の美しい風景を見て周ることに費やそう! やりたいことをやろう、言いたいことを言おう!」そこから僕は少しずつですが、毎年のように、地球の絶景を訪ねる旅にでかけるようになります。あの流星雨が、人生を変えたと言っても過言ではありません。
ふりかえれば、そんなふうに、僕はいつも星空から多くのことを教わってきました。人生の大きな節目で悩んだときも、ひとり静かに星空を見上げます。そうすると、勇気づけられ、背中を押されたような気持ちになるのです。
本当に美しいものとの遭遇は、人間を変えます。星空はその最たるものです。小学5年生のとき、理科の授業で天体のことを習いました。それがきっかけで、僕は星や宇宙が好きになりました。それ以来、僕はいつも星空とともに歩んできたような気がします。
《COSMOS》をはじめ、これまで僕が作った歌の多くは星空の影響を受けています。僕にとって星空は、友だちのような、道しるべのような存在です。君にはそういうものがありますか? 生涯を通して自分のよりどころとなってくれるようなものを見つけられたら、人は幸せですよね。
2.「君も星だよ」とはどういう意味か
合唱曲《COSMOS》については、歌ってくださる方々からいろいろな質問を受けます。歌い方のことや歌詞の解釈、さまざまです。ここでは、作者として歌に込めた想いについて語ってみることにしましょう。
天文少年だった子どものころ、僕は夢中で星の本を読みました。プラネタリウムに毎週通って、星座も覚えました。そんなふうに天文学のことを勉強するなかで、ひじょうに深く、感動したことがあるのです。
ひとつは、「星にも寿命がある」ということ。
夜空に見える無数の星たち。そのほぼ全てが、太陽と同じように自ら輝いていて光を放つ「恒星」です。
宇宙には、太陽よりずっと巨大な星もたくさんあります。それでもあんな小さな点にしか見えないのは、それだけ遠くにあるからなのですね。光の速さで何十年、何百年、何千年とかかるほど遠くにあるのです。
そんな星たちも、永遠に輝くのではありません。カンタンに言うと「燃料が尽きる」時がやってきます。星の寿命は短くても数百万年、長いものは数十億年から百億年以上にもなるそうです。
人間よりもだいぶ長寿ですね。でも、星にも誕生と死があるのです。この宇宙の中に生まれ、限られた時間を生き、いつか消えてゆく。その定めにあるのは人も星も一緒。それを知ったとき僕は、人間も星も同じだ! と思ったのです。
もうひとつは、僕たちの体が何でできているのかということ。
人間の体は、さまざまな元素でできています。骨はカルシウムでできていますし、血の中には鉄がありますね。
こうした、僕や君の体を作っている元素はどこから来たのでしょうか。答えはなんと、「星の中」なのだそうです。
すさまじい高温高圧である恒星の内部では、水素やヘリウムといったシンプルな元素を材料にして、核融合反応によってさまざまな複雑な元素が作られてゆきます。そしていつか、星は最期を迎えます。一生の終わりに星は、ガスを宇宙空間に放出したり、自分自身を粉々に吹き飛ばす「超新星爆発」を起こしたりします。長い時間をかけて作ってきた物質を、宇宙にばらまくのですね。
それを材料にしてまた新しい星が作られる……。宇宙はその輪廻のくりかえし。
地球もそうしてできました。当然、地球に生まれた僕たちの体も、それらを材料にしてできています。僕たちの体を作っている元素は、遠い昔、星だったのです。