

舟橋 三十子(ふなはし・みとこ)
東京藝術大学音楽学部作曲科卒業、同大学院音楽研究科修了。日本大学芸術学部講師を経て、現在、名古屋芸術大学大学院教授。作曲を池内友次郎、矢代秋雄、三善晃、永冨正之の諸氏に師事。ピアノを小林仁、舘野泉の諸氏に師事。
著書に『はじめてのソルフェージュ』全5巻、『ミュージック・トレーニング』全2巻(以上、全音楽譜出版社)、『クラシックの聴き方入門――名曲のスタイル分析 全80曲』『クラシックのからくり~「かたち」で読み解く楽曲の仕組み~』(以上、ヤマハミュージックメディア)、訳書にエドウィン・スミス、デービット・レヌーフ著〔オックスフォード・ミュージック・ワークブック〕『音楽の基礎練習』全3巻(カワイ出版)、ミシェル=オディル・ジロー著『シューベルトを歌いながら学ぼう』全3巻、『モーツァルトを歌いながら学ぼう』全2巻、『シューマンを歌いながら学ぼう』全4巻、ジャン・ピエール・クーロ著『音楽家への第一歩』全8巻(以上、パリ・A. ルデュック社)等がある。
「フォルマシオン・ミュジカル」ホームページ
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【第03回】 2013年度 愛知県立芸術大学音楽学部入試問題より
J.S.バッハ作曲《マタイ受難曲》BWV244からアリア〈憐れみたまえ、わが魂よ〉より導入部分
(実際の入試問題と解答・解説は、音楽之友社『音楽大学 短大・高校 音楽科入試問題集2013』 133~136ページ参照。)
Ⅰ 入試問題解説
(1)借用和音について
近親調から一時的に借りた和音を、借用和音といいます。短い転調と考えることもできます。それぞれの度数の調(Ⅳ調、Ⅴ調など)の前に、その調のⅤやⅤ7の和音(転回形も含む)を置くことによって、ⅠかⅥの和音(転回形も含む)への和声進行を作り出します。このⅤやⅤ7の和音(転回形も含む)を副Ⅴといいます。
ハ長調の音階上の三和音を例にとって、考えてみましょう。
ハ長調のⅡが主和音となる調は、Ⅱ調、二短調
ハ長調のⅢが主和音となる調は、Ⅲ調、ホ短調
ハ長調のⅣが主和音となる調は、Ⅳ調、へ長調(下属調)
ハ長調のⅤが主和音となる調は、Ⅴ調、ト長調(属調)
ハ長調のⅥが主和音となる調は、Ⅵ調、イ短調(平行調)
Ⅶは減三和音なので、主和音にはなりません。
次に、イ短調の音階上の三和音を例にとって、考えてみましょう。
Ⅱは減三和音なので、主和音にはなりません。
では、それぞれの度数の調の前に、借用和音を置いた場合を考えてみましょう。
ハ長調の場合
イ短調の場合
※短調のⅤ調の主和音は短三和音である。しかし、一般的には第3音を導音として半音上げ、長三和音として用いる。
次の作品の借用和音を見てみましょう。
【1】
シューマン作曲《子供の情景》より〈トロイメライ〉op.15-7
解説:
フェルマータの付いている拍は、この曲(ヘ長調)のⅤ調(属調)であるハ長調の属和音を一時的に借りてきている和音です。ここでは、属九の和音の形で用いられています。このような和音を、元の調(この場合はヘ長調)の借用和音といいます。
【2】
シューベルト作曲《即興曲》op.90-4
解説:
39小節目は、この曲(変イ長調)のⅣ調(下属調)である変ニ長調の属七の和音を一時的に借りてきている和音です。このような和音を、元の調(この場合は変イ長調)の借用和音といいます。
(2)舞曲のリズムについて
問題に、「この曲はイタリアの舞曲であるシチリアーノの様式で書かれており~」とあります。このように、クラシック音楽には舞曲のリズムが多く使われています。
特徴的な民族舞曲のリズムには、次のようなものがあります。[ ]内は発祥した国です。
2拍子系 | ハバネラ [キューバ] |
![]() |
タンゴ [アルゼンチン] |
![]() |
|
3拍子系 | ポロネーズ [ポーランド] |
![]() |
ボレロ [スペイン] |
![]() |
|
複合拍子系 | シチリアーノ [イタリアのシチリア島] |
![]() (フォーレ作曲《シチリアーノ》の例) |
バルカローレ [イタリアのヴェネツィア] |
![]() (ショパン作曲《舟歌》の例) |
Ⅱ 応用問題
(1)借用和音
次の調名を答え、五線にその調のⅤ7の和音を、例にならって書きましょう。
【例】ト長調のⅤ調 (ニ長調) | ![]() |
a) | 二長調のⅤ調 | ( 調) | ![]() |
b) | ホ短調のⅣ調 | ( 調) | ![]() |
c) | へ長調のⅥ調 | ( 調) | ![]() |
d) | ハ短調のⅢ調 | ( 調) | ![]() |
e) | 変ロ長調のⅡ調 | ( 調) | ![]() |
f) | イ長調のⅤ調 | ( 調) | ![]() |
次の譜例の借用和音について、前述の【1】、【2】の例にならって、[ ]と( )の中に和音記号を書きましょう。
g) | ![]() |
h) | ![]() |
(2)舞曲
次の作品は、舞曲を用いて作曲されています。下の語群から舞曲名を選び、発祥した国を書きましょう。
i) | 《イパネマの娘》 | 舞曲名 | 国[ ] |
j) | 《エンターテイナー》 | 舞曲名 | 国[ ] |
k) | 《美しき青きドナウ》 | 舞曲名 | 国[ ] |
ワルツ、ミュゼット、マズルカ、ボサノヴァ、パヴァーヌ、 メヌエット、チャルダッシュ、ラグタイム、サンバ、ポルカ |
解答
(1)
a) | ( イ長調 ) | ![]() |
b) | ( イ短調 ) | ![]() |
c) | ( ニ短調 ) | ![]() |
d) | (変ホ長調) | ![]() |
e) | ( ハ短調 ) | ![]() |
f) | ( ホ長調 ) | ![]() |
g) | ![]() |
h) | ![]() |
(2)
i) | 舞曲名 ボサノヴァ | 国[ ブラジル ] |
j) | 舞曲名 ラグタイム | 国[ アメリカ ] |
k) | 舞曲名 ワルツ | 国[ オーストリア ] |
★音楽之友社『名曲で学ぶ音楽の基礎 I 』6~9ページにJ.S.バッハの作品、12ページの問題7、15ページの問題2、42ページの問題9、57ページの問題10に借用和音の問題、60~68ページに、ハバネラなどの様々な民族舞踊のリズムを用いたフォルマシオン・ミュジカルの問題が多数載っていますので、参考にしてください。


音楽大学・短大・高校音楽科入試問題集 2013年度
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