【生誕100年記念特集】安川加壽子とメトードローズ

 2022年は日本のピアノ界に大きな足跡を残したピアニスト安川加壽子さんの生誕100年です。
 安川加壽子さんは、美しくエレガントな演奏で日本中を魅了した名ピアニストであり、国際的に活躍するピアニストを数多く育てた名指導者でした。そして『メトードローズ』から『ドビュッシー ピアノ曲集』にいたるまで長く愛され続けている楽譜を数多く編集しました。
 今も大切に受け継がれている安川さんの教えを振り返り、その功績についてご紹介します。


バラ今改めて学びたい 安川加壽子さんの教え

音の美しさ 

音の美しさ 

「ピアノがこれほど美しい音を出すのか」。安川さんの演奏に接した方は、その音の美しさに驚きました。多彩なタッチが生み出す色彩豊かな演奏は、ピアノを聴く喜びを日本の聴衆に教えてくれたのです。さらに安川さんは、『ピアノのテクニック』を翻訳することによって、美しい音を出す柔軟な奏法を、どのように身につけるか、その学習方法を教えてくれています。

無駄のない自然なテクニック 

無駄のない自然なテクニック

安川さんは、恩師のラザール・レヴィさんから「楽な姿勢で楽な運動でもっとも良い効果を出す」奏法を学び、門下生に伝えました。脱力による自然な姿勢、指や腕の楽な使い方、合理的な運指……安川さんの教えた弾き方は、日本のピアノ教育に大きな影響を与えました。

スタイルに忠実で合理的な解釈  

スタイルに忠実で合理的な解釈 

時代様式や作曲家のスタイルをよく考え、作曲家の意図に謙虚にむかい、耳でよく聴きながら弾く。演奏解釈のための確固とした土台づくりの重要性を安川さんは教えました。『メトードローズ』や『ピアノのABC』等は初級の段階から、楽譜を丁寧に正しく読むことの大切さを教えてくれます。

新しいレパートリー  

新しいレパートリー

ドビュッシーやラヴェル、フォーレ等のフランスのピアノ作品を数多く紹介し、楽譜も出版しました。また日本人作曲家の作品の初演もたくさん行っています。安川さんの紹介した珠玉のレパートリーは、私たちの耳を拓き、ピアノ文化を豊かにしてくれました。

バラ名ピアニスト 安川加壽子

フランスでピアニストとしてデビュー

 

 安川加壽子(旧姓草間加壽子)さんは1922年2月24日兵庫県に生まれました。2022年は生誕100周年です。外交官だったお父様のお仕事の関係で生後14か月のとき、ご両親と共に渡仏し、その地で教育を受けました。
 3歳6か月のとき、「メトードローズ」を使ってピアノを習い始めました。順調に上達し、わずか10歳でパリ国立音楽院に入学、名ピアニスト、名教師として名高いラザール・レヴィ氏に師事。クララ・ハスキルやモニク・アース、ソロモンなど歴史に残る名ピアニストを育てたレヴィ氏の指導によって才能を開花させ15歳で音楽院を卒業。ヨーロッパでデビューします。

感動を引き起こした「本当のヨーロッパの音」

 1939年、第二次世界大戦の戦火を避けて帰国、日本で演奏活動を始めます。安川さんの「本物のヨーロッパの音」は当時の聴衆に深い感動をもたらしました。
 1945年東京大空襲の際には、楽器や楽譜をすべて失い一度はピアノを諦めますが、翌年、日本交響楽団(現在のNHK交響楽団)の演奏会から復帰し、以来、多くの主要オーケストラのソリストに迎えられ、全国で活発に演奏活動を行います。ショパンやシューマンなどの連続演奏会や、ドビュッシーやラヴェル、フォーレ等のフランス音楽の清新な演奏は今でも語り草となっています。1983年、リウマチのために演奏活動を引退するまで、安川さんはピアノの美しさを届け続けました。

名ピアニスト 安川加壽子 
「ピアノ調律、最上の演奏ができるのも、演奏開始前には、ピアノ調律という小さなことまでにも注意を怠らない。」(音楽之友1954年6月号より)
名ピアニスト 安川加壽子 
1976年7月6日 ドビュッシー ピアノ曲集完結記念リサイタル(東京文化会館大ホール)
バラ名指導者 安川加壽子

 

 1946年、楽壇復帰を果たした年に、東京音楽学校(現在の東京藝術大学)で講師となりました。1952年に教授に就任。桐朋学園大学や大阪音楽大学でも教鞭をとり、長年にわたる指導によって国際的に活躍するピアニストを次々と育てました。またNHKテレビ番組「ピアノのおけいこ」には1963から4回にわたって出演し、全国の子供たちにピアノを学ぶ楽しさを伝えました。1971年からロン=ティボー、ジュネーヴ、エリザベート王妃、ショパンなどの国際ピアノコンクールの審査員を歴任。さらに1984年には日本ピアノ教育連盟を設立、初代会長に就任。指導者としても世界のピアノ界に貢献されました。

名指導者 安川加壽子  
1951年6月13日 メトードローズ出版記念演奏会(日比谷公会堂)
名指導者 安川加壽子 
1987年5月 エリザベート王妃国際コンクールにて(前列左端)
バラ楽譜の出版

 1951年、安川さんが子供の時に習った『メトードローズ ピアノの1年生』を翻訳します。刊行前にはご自身の子供もこの教本で教えていました。ソルフェージュも楽典も学べる『メトードローズ』は、曲の美しさや学びやすさが人気となって、瞬く間に広まりました。翌1952年『ピアノのテクニック』『ピアノのABC』、1953年『ピアノのラジリテー』を翻訳出版し、初級者のための楽譜を体系的に揃えていきます。1955年からは『ピアノ小曲集』(全3巻)を編纂、ピアノ教育に必要なレパートリーを構築しました。
 さらにフォーレやモシュコフスキーの作品などを紹介、特に1960年から手掛けた『ドビュッシー ピアノ曲集』(全9巻)は「安川版」として多くの演奏者・学習者に愛され続けています。
 安川さんの手掛けた楽譜の数々は日本のピアノ教育の水準を世界的なものにしたのです。

楽譜の出版 
『メトードローズ』初版刊行時の雑誌広告(音楽之友1951年5月号) 大きく取り上げられ、当時の注目度が窺える

カリキュラム・グレード表


安川さんが携わった楽譜のカリキュラム、グレードの一覧です。 導入から上級者まで、あらゆるレベルの演奏者に有効なテクニック、演奏の提案も、活動の一環として大切にされていました。

カリキュラム・グレード表

導 入

新版 メトードローズ・ピアノ教則本 ピアノの1年生

新版 メトードローズ・ピアノ教則本 ピアノの1年生

新版 メトードローズ・ピアノ教則本

新版 メトードローズ・ピアノ教則本


テクニック

新版 ピアノのテクニック

新版 ピアノのテクニック


練習曲

新版 ピアノの練習ABC

新版 ピアノの練習ABC

新版 ピアノの練習ラジリテー

新版 ピアノの練習ラジリテー

安川加壽子が選んだ
色とりどりの練習曲

安川加壽子が選んだ 色とりどりの練習曲

ジュニア版ピアノ
の練習ABC

ジュニア版ピアノ の練習ABC


曲 集

ピアノ小曲集全3巻

ピアノ小曲集全3巻

ドビュッシーピア
ノ曲集全9巻

ドビュッシーピアノ曲集全9巻

モシュコフスキー
15の練習曲

モシュコフスキー15の練習曲

クラヴサン曲集

クラヴサン曲集

フォーレピアノ名
曲集

フォーレピアノ名曲集

安川加壽子の発表会アルバム

安川加壽子の発表会アルバム



バラ生誕100年記念刊行物バラ

 生誕100年を記念して、インタビュー記事や執筆記事を厳選し1冊にまとめた『蘇る、安川加壽子の「ことば」』を刊行。演奏者として、指導者として、戦後日本の音楽界を牽引してきた安川さんから発せられる率直な「ことば」を貴重な写真と共に収載しました 。

蘇る、安川加壽子の「ことば」

音楽においても、家庭においても、人付き合いにおいても、どのような信念のもとにその美学を貫いていったのか、興味深いエピソードも満載。『メトードローズ』をはじめとする数々のピアノ教本や曲集の狙いを読み解く大きなヒントにもなります。安川加壽子に師事した青柳いづみこによる各章に付されたコラムが、当時の背景を踏まえながらより理解を深める手助けをしています。

蘇る、安川加壽子の「ことば」

蘇る、安川加壽子の「ことば」

音楽においても、家庭においても、人付き合いにおいても、どのような信念のもとにその美学を貫いていったのか、興味深いエピソードも満載。『メトードローズ』をはじめとする数々のピアノ教本や曲集の狙いを読み解く大きなヒントにもなります。安川加壽子に師事した青柳いづみこによる各章に付されたコラムが、当時の背景を踏まえながらより理解を深める手助けをしています。

 1951年刊行以来、70年以上のロングセラー「メトードローズ」が生まれ変わりました。内容、収録曲、楽譜はそのままに、解説を読みやすくし、紙面を整えました。横判(上・下)ではすべての漢字にふりがなをふっています。判型を一回り小さくして持ち運びしやすくなった上に、針を使わない製本方法に変更したことで、安心してお使いいただけます。「新版 メトードローズ」として、さらに広く長くお使いください。
 続けて「ピアノの練習ABC」「ピアノの練習ラジリテー」「ピアノのテクニック」も新版として使いやすくなりました。「メトードローズ」の次に進む本として、合わせてお使いください。
 NHK「ピアノのおけいこ」のために選曲された練習曲をまとめた『安川加壽子が選んだ色とりどりの練習曲』や、当時生徒たちのために開いていた発表会のプログラムから抜粋した『安川加壽子の発表会アルバム』も好評発売中です。

new 新版 ピアノのテクニック

エルネスト・ヴァン・ド・ヴェルド著の『Le déliateur』は、1952年に『ピアノのテクニック』として安川加壽子により翻訳されました。新版では、70年以上のロングセラーの内容はそのままに、楽譜を浄書し直して細かい音符や指番号も読みやすくなるよう整えています。プロフィールを追加した「巨匠の忠言」は、ピアノを練習する上での指針となるでしょう。スタッカートとレガートを交互に練習することで、ピアノの弾き方に柔軟さ、円滑さ、音の美しさを与える、ピアノ演奏者必携のテクニック教本。

■新版のポイント■
□ 楽譜がスッキリ見やすくなったので、毎日の練習がより捗ります
□「巨匠の忠言」にプロフィール(巻末)が加わり、その言葉がより真実味のあるものに
□ 判型が小さくなり、手軽に持ち運びやすくなりました

新版 ピアノのテクニック

安川加壽子の発表会アルバム

一番身近な生徒たちのために開いていた小さな発表会は、その粋な選曲に驚かされます。現代でもなかなかお目にかかれないような圧巻のセンスで組まれた発表会プログラムをもとに、なかでもとくに魅力的な楽曲を年代順に収載しました。編者は、当時発表会で演奏した経験もある愛弟子・青柳いづみこ。当時の子どもたちのために選ばれた意図・意義を読み取り、楽曲ごとに演奏へのヒントを提示しています。

安川加壽子の発表会アルバム

新版 ピアノの練習ABC

ル・クーペ著の『L’lphabet Op.17』は、1952年に『ピアノの練習ABC』として安川加壽子により翻訳されました。『メトードローズ・ピアノ教則本』の後に使う教材で、A~Zの全25曲が収録され(Jは除く)、各曲に安川加壽子による練習方法の助言がつけられています。調号は#4つまで、♭3つまで。本書終了後は『ピアノの練習ラジリテー』へお進みください。

新版 ピアノの練習ABC

新版 メトードローズ・ピアノ教則本 ピアノの1年生

エルネスト・ヴァン・ド・ヴェルド著の『メトードローズ・ピアノ教則本』は、1951年に安川加壽子により翻訳された70年以上のロングセラーです。無理なく自然にピアノに慣れていけるように、フランスの童謡が多く収録されています。拍子を言いながら弾くのでリズム感が自然に身につき、レガートやスラー、左右のバランス、強弱での表情のつけ方などで「歌うように弾けるようになる」ピアノ教本です。

新版 メトードローズ・ピアノ教則本 ピアノの1年生

新版 メトードローズ・ピアノ教則本 上巻

ト音記号、2度~5度、2/4拍子、3/4拍子、4/4拍子、全音符、四分音符、二分音符、付点二分音符、ヘ音記号、大譜表、スラー、レガート、シャープ、全休符、四分休符などを学びます。

新版 メトードローズ・ピアノ教則本 上巻

新版 メトードローズ・ピアノ教則本 下巻

八分音符、タイ、音の保持、付点四分音符、フラット、ナチュラル、アクセント、3/8拍子、6/8拍子、スラー、レガート、フェルマータ、指を広げる・よせる練習、強弱、連打音、指の置きかえ、音階の平行と反行、⻑音階・短音階などを学びます。

新版 メトードローズ・ピアノ教則本 下巻

安川加壽子が選んだ色とりどりの練習曲

「音階」「アルペッジョ」「3度」など、テクニックが効果的に身に付くように練習曲が注意深く選ばれています。「こうしてしっかりと土台を築き上げていけば、そのあとの課題であるショパンの練習曲に、ある程度らくに入れるようになるはずです」(安川序文より)。 安川加壽子に師事した多美智子による練習方法のヒントや気を付けるべきポイントも掲載。レッスンだけでなく独習の方にもお役立ていただけます。

安川加壽子が選んだ色とりどりの練習曲

新版 ピアノのテクニック

エルネスト・ヴァン・ド・ヴェルド著の『Le déliateur』は、1952年に『ピアノのテクニック』として安川加壽子により翻訳されました。新版では、70年以上のロングセラーの内容はそのままに、楽譜を浄書し直して細かい音符や指番号も読みやすくなるよう整えています。プロフィールを追加した「巨匠の忠言」は、ピアノを練習する上での指針となるでしょう。スタッカートとレガートを交互に練習することで、ピアノの弾き方に柔軟さ、円滑さ、音の美しさを与える、ピアノ演奏者必携のテクニック教本。

■新版のポイント■
□ 楽譜がスッキリ見やすくなったので、毎日の練習がより捗ります
□「巨匠の忠言」にプロフィール(巻末)が加わり、その言葉がより真実味のあるものに
□ 判型が小さくなり、手軽に持ち運びやすくなりました

安川加壽子の発表会アルバム

一番身近な生徒たちのために開いていた小さな発表会は、その粋な選曲に驚かされます。現代でもなかなかお目にかかれないような圧巻のセンスで組まれた発表会プログラムをもとに、なかでもとくに魅力的な楽曲を年代順に収載しました。編者は、当時発表会で演奏した経験もある愛弟子・青柳いづみこ。当時の子どもたちのために選ばれた意図・意義を読み取り、楽曲ごとに演奏へのヒントを提示しています。

新版 ピアノの練習ABC

ル・クーペ著の『L’alphabet Op.17』は、1952年に『ピアノの練習ABC』として安川加壽子により翻訳されました。『メトードローズ・ピアノ教則本』の後に使う教材で、A~Zの全25曲が収録され(Jは除く)、各曲に安川加壽子による練習方法の助言がつけられています。調号は#4つまで、♭3つまで。本書終了後は『ピアノの練習ラジリテー』へお進みください。

新版 メトードローズ・ピアノ教則本 ピアノの1年生

エルネスト・ヴァン・ド・ヴェルド著の『メトードローズ・ピアノ教則本』は、1951年に安川加壽子により翻訳された70年以上のロングセラーです。無理なく自然にピアノに慣れていけるように、フランスの童謡が多く収録されています。拍子を言いながら弾くのでリズム感が自然に身につき、レガートやスラー、左右のバランス、強弱での表情のつけ方などで「歌うように弾けるようになる」ピアノ教本です。

新版 メトードローズ・ピアノ教則本 上巻

ト音記号、2度~5度、2/4拍子、3/4拍子、4/4拍子、全音符、四分音符、二分音符、付点二分音符、ヘ音記号、大譜表、スラー、レガート、シャープ、全休符、四分休符などを学びます。

新版 メトードローズ・ピアノ教則本 下巻

八分音符、タイ、音の保持、付点四分音符、フラット、ナチュラル、アクセント、3/8拍子、6/8拍子、スラー、レガート、フェルマータ、指を広げる・よせる練習、強弱、連打音、指の置きかえ、音階の平行と反行、⻑音階・短音階などを学びます。

安川加壽子が選んだ色とりどりの練習曲

「音階」「アルペッジョ」「3度」など、テクニックが効果的に身に付くように練習曲が注意深く選ばれています。「こうしてしっかりと土台を築き上げていけば、そのあとの課題であるショパンの練習曲に、ある程度らくに入れるようになるはずです」(安川序文より)。 安川加壽子に師事した多美智子による練習方法のヒントや気を付けるべきポイントも掲載。レッスンだけでなく独習の方にもお役立ていただけます。