第2回
《COSMOS》その2
3.いまここに生きているということの重さ
一人の人間は、ある日とつぜん生まれるのではありません。自分だけの力で生まれたわけでも、生きているわけでもありません。この広大な宇宙を舞台にして起こった、138億年の全ての出来事がつながって、君が生まれたのです。君の中にも、その歴史は確かに流れています。
君の体は、むかし、星でした。そして遠い将来、僕たちの体を作っている元素はまた星になるのかもしれません。すごいでしょう。天文学は、そういうことを教えてくれるのですよ。
自分の存在とは何なのか。自分は何のために生まれてきたのか。自分は何をして生きてゆくべきなのか。
僕は中学2年生のとき、本当に深くこのことを考えるようになりました。おそらく誰もが、程度の差こそあれ、一度はこのテーマを自分自身に問うことでしょう。《COSMOS》を歌ってくれている若い皆さんのなかにも、すでにそんなことを考えている人もいるかもしれませんね。これは簡単に答えが出ることではありません。みんな、人生を通して、ゆっくりと長い時間をかけて自分なりの答えをみつけてゆくのです。君もいつか、きっと答えにたどり着きますよ。
僕にとっては、その答えをくれたのは星空だったのです。子どもの頃にベランダから星空を見上げた時間や、天文学の本で知ったこと。大人になってから旅先で見上げた星空。それらすべてが、今も人生を支えてくれる大きな財産になっています。
《COSMOS》に何度も出てくる、「君も星だよ みんなみんな」という歌詞。
この一節はべつに比喩のつもりではなく、本当のことを言っているのです。
必然なのか偶然なのか。それは分からないけれども、広い宇宙のここに、長い歴史の今という瞬間に、僕らは生を受け、生きています。なぜなのでしょう。何のためなのでしょう。それを問うことは、必ず君の幸せにつながります。
広い宇宙の中に生まれ、いつか消えるその日まで、限られた時間をちゃんと生きる。それは星も人間も、花も虫も同じでしょう。みんな同じこの宇宙の中に生まれ、同じ瞬間を生き、みんな同じ材料でできているのですよ。
だから僕たち人間も、あの星たちのように、蛍のように、自分自身を輝かせて生きよう。
気の遠くなるほど長いリレーをつないで渡された君の命を、君は大切にしなければならない。
与えられた時間の中で、何かを見つけ、何かをしよう。
僕たちは夜空に星の明かりを見つけて、きれいだなと感動したり、癒されたりします。その語りかけるような輝きに、一人ぼっちではないと勇気づけられたりもします。
君も僕も、あの星たちのように自分を輝かせて生きよう。誰かにとっての灯りとなろう。たとえどんなに小さくても、この世界で、自分の生きる場所で光を灯そう。もしもみんながそんなふうに生きることができたら、世の中はきっと、思いやりに溢れ、お互いに与え合うことができる、素晴らしいものになるのではないでしょうか。

大自然の絶景が広がるアメリカ西部が大好きで、何度も旅しています。
星空も素晴らしく、夜になると銀の砂をまき散らしたような満天の星空が見られます。
4.誰にも理解されなかったとしても
上に書いたことが、《COSMOS》という歌に込めた僕の想いです。
この歌を作ったのは1996年、25歳のとき。若かったですね。
実は、《COSMOS》を作ったとき、自分の言いたいことをぜんぶ言えた気がして、大きな充実感がありました。長い時間をかけて星空から学んだことを、一つの歌に集約できた気がしたのです。
しかし同時に、こんな歌は誰からも理解されないだろうとも思いました。こんなことを分かってくれて、共感してくれる人なんて、一人もいないだろうと思ったのです。それでも僕は幸せでした。誰にも理解されなかったとしても構わない。人間は、ほんとうにベストを尽くせたと思うとき、そのこと自体に大きな幸せを感じることができるものですね。
実際、アクアマリンのボーカル・Sachikoも、最初にこの詞を見たときに「何を言っているのかサッパリ分からない」と言いました。Sachikoさんとはもう18年も二人で一緒に音楽活動をしています。2006年には夫婦になりました。僕の作る歌をもっとも理解して、歌ってくれている人です。それでも最初はそんな感じだったのでしょう。僕も僕で、「まあそうでしょうけど、とりあえず歌ってよ」という感じでした。
長野県に原村という所があります。そこが、僕たちアクアマリンが初めて人前で演奏した場所。ここでは毎年8月に、大規模な星のイベントが開かれます。その名も「原村星まつり」。日本じゅうから大勢の天文ファンが集まって、高原の美しい星空を楽しむのです。そこに出演させていただき、ステージで歌ったのですね。1998年夏のことです。
そのとき、《COSMOS》を含む数曲を収録したカセットテープを、50個ほど作って持って行きました。1個500円で売ったのです。そうしたらそれが、47個も売れたのですね! それはまさに奇跡のようなことでした。
しかし本当の奇跡はそこから起こります。そのカセットテープを買ってくださった方のなかに、東京の小学校の先生がいました。その先生は、《COSMOS》が子どもたちの合唱にピッタリだと思ったそうです。そこで楽譜や音楽教材を出版している音楽之友社に相談しました。さらにそれを富澤裕先生が合唱用に編曲してくださり、『教育音楽』に楽譜が載ったのです。この歌が合唱曲として、全国の皆さんに歌っていただくようになったのは、大勢の方のご理解と応援のお陰なのです。本当にありがとうございます。
*注:長野県の「原村星まつり」は現在も続いています。ことし2016年は8月5・6・7日(金〜日)の開催予定だそうです。アクアマリンもコンサートを行なう予定ですので、ぜひ皆さまふるってご参加下さい。天文初心者やファミリーも楽しめる星の観望イベントです。


結成以来、もう18年も毎年出演させて頂いています。

富澤裕セレクション
COSMOS
ミマス作品集
ミマス 詞/ミマス&Sachiko 作曲/富澤裕 編曲
「COSMOS」のヒットで知られるようになったミマス(アクアマリン)の作品集。代表曲「COSMOS」の他、新編曲の「地球星歌〜笑顔のために〜」「明日の空へ」など全6曲を小学校・中学校で歌いやすいようにアレンジ。授業・集会・行事・音楽会などの選曲に最適。 [難易度]初級 [対象]小学生・中学生