君も星だよ ――合唱曲《COSMOS》に込めたメッセージ

ミマス
1971年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。音楽ユニット『アクアマリン』のキーボード、ギター、作詞・作曲担当。代表曲『COSMOS』『地球星歌』などは富澤裕氏により合唱曲に編曲され、全国の学校や合唱団で歌われている。小学生の頃から天文や宇宙に親しみ、旅好きで多くの国を旅した経験もあるため、星や宇宙、自然や旅などをテーマにした作品が多い。大学・大学院の専攻は自然地理学。音楽は高校生のときに独学で始める。近年はアクアマリンでのライブ活動のほか、小・中学校に招かれての授業や講演も多い。
公式サイトは、http://aqumari.com/

ミマス

第4回
《一つの明かりで》

《一つの明かりで》歌詞

一つの明かりで 照らせるものは
小さな部屋と 心細い道
だけどみんなの 心の希望が
光りつづければ 明日は変わる

*心の明かりで 未来を照らそう
 どんな深い暗闇にも 負けないように*

家族や友達が いっしょにいれば
笑いあえる日も いつかくるだろう
つないだ手と手の このぬくもりを
たくさんあつめて 伝えてゆこう

**みんなの心で 未来を照らそう
  やがてくる明日が かがやくように**

*〜* くりかえし
**〜** くりかえし

やがてくる明日が かがやくように


1.東日本大震災のこと

 これからお話しするふたつの合唱曲、《一つの明かりで》と《いつかこの海をこえて》は、東日本大震災の直後に東北地方の小中学生の皆さんと一緒に作りあげたものです。この2曲も多くの学校や合唱団で歌っていただいています。曲についてのお問合せも時々いただくので、制作の経緯などを書いてみたいと思います。

 東日本大震災の起こった2011年3月11日。この日付は、日本の歴史において永遠に忘れられないものです。
 はかりしれない大きな被害が出ました。おおぜいの方が亡くなりました。僕にとっても生涯忘れることのない悲しい日です。

 震災から数ヶ月たった5月のある日、僕は一通のメールを受け取ります。差出人は小学校の先生。山形市立蔵王第三小学校とあります。全校児童たった9名の小さな学校とのこと。そこで5年生と6年生の担任をされている、髙橋夏奈先生からのお便りでした。
 蔵王といえば樹氷や温泉が有名なところだな……。何のメールだろう? 僕は軽い気持ちで読みはじめました。

 そのメールの内容は次のようなものです。
 山あいにある全校児童9名の蔵王第三小学校。そして同じ敷地にある全校生徒12名の蔵王第二中学校。あわせて21名のお子さんたちが、震災で被災された方々のために支援活動をつづけているというのです。

 彼ら21人は、連日報道される被害の大きさに心を痛め、すぐに行動を起こします。自分たちで考えて、意見を出し合い、自分たちにできる様々なことを始めたのです。
 そのなかに、「避難所を訪れて歌を贈る」という活動がありました。彼らの住む山形市にも、被災した方々がおおぜいやってきていたのです。大きな体育館が避難所となり、先の見えない避難生活が続いていました。
 避難所で生活している方々のなかには、大切なご家族を亡くされた方や、津波で家を流された方、これからの生活のめどが全く立たない方もいます。生きる希望や、元気を取り戻すためのお手伝いが少しでもできないだろうか……。そんな想いからの活動だったそうです。

 そのさいに彼らが歌った曲のひとつが《地球星歌》でした。想いのあまり最後まで声を震わせて歌った21人に対して、500人の方々が、温かい拍手と涙でこたえてくれたそうです。
 僕はまるでその場に居合わせるかのように、緊張しながらメールを読みました。そして、こんな素晴らしい小中学生がいるということに、驚きと感動を覚えたのです。

 
2012年3月13日に訪れた山形市立蔵王第三小学校・蔵王第二中学校の校舎。
ここで21名の児童・生徒さんたちと対面を果たしました。

2.蔵王からの手紙

 先生からのメールには続きがありました。
 「子どもたちから、ぜひミマスさんと一緒に曲を作って被災された方々のために歌いたいという声があがりました……」。

 ひじょうに丁重な、遠慮がちな文面でしたが、僕の気持ちはそれを読んだ瞬間に決まっていました。
 「問題は、どうやって作るかだと思います――」。すぐに返信を送りました。

 6年生と5年生が書いた詩があるというので、さっそく送ってもらいました。6年生が2名、5年生が3名。これで全員ぶんです。担任の髙橋先生の詩もありました。みんな異口同音に、地震にあった時の恐怖、その後続いた停電の心細さをつづっています。でも同時に、そんな中でも人々が連携することの大切さ、そうすることでみんなで困難を乗り越えてゆこうという意志も伝わってきます。
 僕はみんなの言葉を拾い、想いをまとめて詞と曲を作りました。そのとき心がけたのは、みんながすぐに覚えて歌えるように、できるだけシンプルな歌にすることです。そうして完成したのが《一つの明かりで》。歌のタイトルは、後述する6年生の女の子の詩の題名をそのまま使わせていただいたものです。

 歌詞と楽譜をお送りした直後から、彼ら21人の小中学生たちはいろいろな機会で歌ってくれました。なかでも、その年の11月に山形市民合同音楽祭で演奏したさいの反響は非常に大きかったそうです。校外の方からも「この歌を大切に育て全国に発信してはどうか」という声が寄せられたとのことです。 

 《一つの明かりで》はその後、合唱曲として広く歌われるようになります。そこには、彼らの想いを大切にしながら編曲をしてくださった富澤裕先生や、その楽譜を世に出すという決断をした音楽之友社の岸田雅子さん、また、彼らの合唱の音源を被災地のラジオで放送したエフエム岩手の皆さま、何よりも学校の先生や保護者など多くの方々の理解と応援があります。

 その一連のできごとを、僕は奇跡を見るような気持ちで見守っていました。21人の彼らの想いと行動が、さまざまな大人たちや社会の共感を呼び、共鳴を起こし、どんどん大きくなって伝わっていく。小さな一歩が世の中を変える……。僕はほんとうに、彼らから大切なことを教わりました。

深い雪と湯けむりに包まれた蔵王の温泉街。
この歌はこんな場所で生まれました。

3.心から尊敬する21人の小中学生たち

 「蔵王のみんなに会ってみたいな……」。
 漠然と心に芽生えていたその願いは叶えられます。学校の先生がたも、子どもたちと僕が対面する機会を作ろうと尽力されたそうです。お招きいただき、年が明けた3月、雪深い蔵王を僕は訪れました。

 《一つの明かりで》の合唱をライブで聴いたのはそのときが初めてです。体育館に21人の歌声が響きます。僕は心から感動しました。みんな緊張している様子でしたが、ほんとうに素晴らしい合唱でした。

 その時みんなに語ったことを、今でもよく覚えています。

 「僕は皆さんを心から尊敬します。震災の直後、多くの人たちが自分も何かをしなければならないと感じました。でもほとんどの人は、自分に何ができるかが分からず、なかなか行動には移せませんでした。僕もそうです。
しかしみんなは、自分たちにできることを考え、実際に行動した。それはすごいことです。みんなの活動に、僕を仲間に入れてくれて、感謝します。
 僕には、いま生後5ヶ月の息子がいます。母親のお腹の中であの地震を体験しました。この子が大きくなったら、必ず蔵王に連れてきます。そこで、みんなと一緒に歌を作ったことを話します。僕は親として、息子には、みんなのような人間になって欲しいからです。」

 その頃、僕は親になったばかりでした。子育てをどのようにやったら良いのか、手探りの状態です。どこかに良いお手本があったら見習いたいものだと、殊勝に育児の本なども買って読んでいました。そんな中での彼らとの出会いは、僕に針路を示してくれるようなできごとでした。

 僕は今でも21人みんなを尊敬していますが、なかでもある女の子のことがひじょうに印象に残っています。

 ミマスに曲作りを頼もう、という段になったとき、学校では慎重論もあったそうなのですね。つまり、そんなことをやってもらえるはずがないし、失礼なんじゃないかと。  そのとき、その6年生の女の子は言ったそうです。
 「行動しないで後悔するよりも、お願いして断られてガッカリするほうがいい」
その一言が決め手になって、僕はあの最初のメールをもらったわけです。

 すごいでしょう。彼女は一言で世界を変えました。世界を変えたというのが大げさなら、少なくとも自分の人生と周囲の人々を変えました。行動を起こすこと。ダメかもしれないけど、そのときにできる限りのベストを尽くすこと。それがどれだけ大切か、彼女は教えてくれました。とても聡明な雰囲気の子でした。

蔵王といえば有名なのがこの樹氷。
彼らの学校を訪れた次の日は温泉街からロープウェイに乗り、
この絶景を眺めてから帰りました。

ご紹介した本
絆の歌

絆の歌
音楽之友社 編

2000年に刊行したロングセラー曲集『小学生のためのNew! 心のハーモニー』シリーズ全10巻の改訂版。学級歌、音楽集会・朝会の今月の歌、行事や音楽会などの選曲に最適なラインナップ。入学式から卒業式までの全校音楽活動に対応している。 この第7集には、大震災後に人々の心をつないで話題になった歌の数々を全10曲を収録。
[難易度]初級 [対象]小学生

地球星歌〜笑顔のために〜

いつかこの海をこえて 全曲収録CD付き楽譜[解説付き]
音楽之友社 編

オリジナルの新作を中学生に贈るクラス合唱曲集。音楽授業の副教材として、あるいは校内合唱コンクール(合唱祭)をはじめとする行事の選曲などに最適。標題曲のほかに、ミマス、富澤裕、若松歓、山崎朋子、栂野知子、八木澤教司、大田桜子ら人気作曲家の曲を全10曲収録。全曲収録範唱CD付き。
[難易度]初級〜中級 [対象]中学生

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